大判例

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大阪高等裁判所 昭和55年(う)47号 判決

本店の所在地

京都市南区上鳥羽鉾立町四番地

法人の名称

巖本金属株式会社

右代表者

巖本光守こと 李光守

国籍

韓国(慶尚北道義城郡丹北面魯渕洞七三〇)

住居

京都市南区西九条西蔵王町三〇番地

会社役員

巖本光守こと李光守

一九二六年一二月一〇日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、昭和五四年一二月五日京都地方裁判所が言渡した判決に対し、被告人らから控訴の申立があったので、当裁判所は次のとおり判決する。

検察官 増田光雄 出席

主文

原判決中被告人巖本金属株式会社に関する部分を破棄する。

右被告会社を罰金六〇〇万円に処する。

原審の訴訟費用は相被告人李光守と連帯して右被告会社の負担とする。

被告人李光守の控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人丸尾芳郎作成の控訴趣意書に記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴趣意一について

論旨は、両被告人に関する事実誤認の主張であって、被告会社がミツナ鋼建株式会社(以下単にミツナという。)に売却した土地の坪単価は原判示のように二四万円ではなく、契約書の記載から算出されるとおり二〇万七、一四二円である、というのである。

しかしながら、原判決の挙示する証拠によると、被告会社は、ミツナから土地を買入れるに際してその坪単価を五九万円と約定した後、被告会社所有の本件土地を坪単価二四万円でミツナに売却することとしたうえ、ミツナ所有の土地についてその表向きの坪単価を税対策などのためにいったんは四九万円とし、さらに国土法の関係や融資先の意向などを考慮してその表向きの坪単価を四七万円に引き下げ、この引き下げに伴う差額分を被告会社からミツナに売却する土地の坪単価を二〇万七、一二四円とすることで調整したことが明らかに認められるのであって、これを覆えすに足りる証拠は存在しない。そうしてみると、被告会社からミツナに売却した本件土地の坪単価について契約書に記された売買代金と坪数から算出される二〇万七、一二四円は表向きのことであって、真実は原判決認定のとおり二四万円であったといわざるを得ない。論旨は理由がない。

控訴趣意二について

論旨は、被告会社に関する量刑不当の主張であって、一、〇〇〇万円の罰金は高額に過ぎる、というのである。

そこで、記録を調査し当審の事実取調の結果をも参酌して検討するのに、本件は、被告会社が八、二九二万余円の所得があったのにこれを秘匿して欠損である旨虚偽の申告をし、三、二〇二万余円の法人税をほ脱したものであって、犯行の動機、ほ脱額などの点で犯情を軽視しがたいことを考慮すると、原判決の量刑にも相当の根拠はあるが、当審における事実取調の結果によると、原判決当時すでに本件ほ脱額を大幅に上回る法人税を納付していたことが明らかであって、これをあわせ考慮するときは、原判決の罰金額はやや酷に失するものと考えられる。論旨は理由がある。

よって、被告会社に関する部分は刑事訴訟法三九七条一項、三八一条により破棄し、同法四〇〇条但書により更に判決することとし、原判決の認定した事実にその挙示する各法条を適用し、被告人李の控訴は同法三九六条を適用してこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 瓦谷末雄 裁判官 香城敏麿 裁判官 鈴木正義)

○控訴趣意書

被告人 巖本金属株式会社

代表者 巖本光守こと

李光守

被告人 巖本光守こと

李光守

右の者に対する法人税法違反被告事件の控訴趣意は次のとおりである。

昭和五五年二月二二日

弁護人 丸尾芳郎

大阪高等裁判所

第七刑事部 御中

一、事実誤認

(一) 原判決によれば

被告人会社所有地京都市伏見区竹田向代町七四番地四七九・五坪(以下被告人会社所有地と云う)をミツナ鋼建株式会社(以下ミツナと云う)所有地京都市南区上鳥羽鉾立町五番地七八七・七五坪(以下ミツナ所有地と云う)と交換売買したが、被告人会社所有地の売値坪単価二四万円計一一五、〇八〇、〇〇〇円であるのに、坪単価二〇七、一四二円計九九、三二五、〇〇〇円に圧縮して税務申告し、その差額一五、七五五、〇〇〇円の所得をは脱したと云うにある(検察官冒頭陳述書別紙〈6〉の事実)。

(二) 然し右は事実の認定を誤っている。

即ち、被告人会社としては何らの圧縮もなく右坪二〇七、一四二円が実際の取引価格である。

原判決によれば

「ところで、弁護人らは、右二〇七、一四二円は時価であって何ら圧縮はないというが、なるほど仮にミツナの土地の坪単価が真実四七万円であるとすれば、そのようにいう事ができるのであろうけれど、前示のようにミツナの土地の売買価格は坪五九万円であって四九万円でも四七万円でもない事は動かし難い事実である以上、その支払うことになった差額(表及び裏を含む)からみて被告人会社の土地の売買価格が坪二〇七、一四二円ではありえず坪二四万円であったと云わざるを得ない。」

旨判示している。

なる程ミツナの土地の価格が坪四九万円でも四七万円でもない事は動かし難い事実である。

弁護人らは原審の証人尋問中や弁論において、被告人会社の所有地が坪二〇七、一四二円が実際価格である旨主張せんとして、これに対するミツナの所有地の価格坪四七万円も実際取引である旨を証人尋問に際し発問し、或は弁論で引用しているがこれは誤りであった。(弁論要旨書中曽根賢二の証言を引用した部分、原審公判証人野村要三に対する弁護人の質問等)

然しその真意は坪四九万円は圧縮された価格であり、それから実際に坪二万円也を値引きして坪四七万円になったとの意味に外ならないが、この事は同人らの証言の前後の状況、証人長尾克已、被告人本人らの原審における証言供述を併せて熟読吟味すれば、自らは判明する事と思われる。

処が原判決は右の如き弁護人の誤りの発問や主張をとらえて前記の如き判示をしているがこれは揚げ足をとらえた論法であって本筋を見誤っていると云わねばならない。

従って弁護人として正確に主張するとすればミツナの土地は当初坪五九万円の実際価格を、坪二万円値下して坪五七万円としたものであり、その間、坪一〇万円の圧縮がなされているものである (尚、裏金七八、七七五、〇〇〇円「一〇万円×七八七・七五坪」の内六七、〇三五、〇〇〇円のみ支払われ、その差額は値引きされたものとなったから、ミツナの土地の最終価格はそれ相当差引かれる事となる)と云う事になる。

右の如く圧縮後(坪四九万円)実際の値下げが坪二万円であればその実際価格も圧縮分坪一〇万円を加えれば坪五七万円となるから原判決の云う如く

「その支払う事となった差額(表及び裏を含む)から見て被告人会社の土地の売買価格が坪二〇七、一四二円ではありえず」

とは云い得ない事になろう。

(三) そもそも、被告人会社の所有地はこれを当初より売却目的があったわけではなく、ミツナの所有地が被告人会社として営業上是非必要があったので(被告人会社の隣接地)ミツナに対し以前からその売渡し方を懇願交渉していたが、ミツナが仲々これに応じなかった処、銀行の仲介もあり、ミツナの希望によりたまたま被告人会社所有地と交換差額決済をしようと云う事になったものであるから、被告人会社としてはミツナの土地の入手と云うことのみ念頭にあり、自己の土地を交換する事による利益など全く考えても居なかったので、その価格を圧縮するなど思いもよらず全くその必要はなかった。

被告人とミツナ側と実際交渉に入ったが一応ミツナの土地坪五九万円、被告人所有地坪二四万円の線が出た。

右坪五九万円では高額に過ぎ、被告人会社の得意先で右土地を買うにつき資金を貸してくれる三井物産株式会社としては、右価格では高過ぎて融資に応じてくれない。

元来、ミツナの右価格は時価に比し極めて高いものである事は被告人も知っていたが、被告人会社では是非とも必要な物件であるとの弱味もあって、強く値引きの要求も出来ず、要求しても足許を見られてこれに応じてもくれず、止むなく融資先の三井物産の承諾をとる方便として、坪五九万円を四九万円に圧縮する事となった。

この経緯は右の如くミツナ側の利益と云うより、被告人の都合によるものが主とした動機であった。

従って一応ミツナの土地坪四九万(圧縮後)被告人会社所有地坪二四万円(圧縮なし)と云うことで契約しようと云う事であったが、これら契約に関与していた税理士野村要三が別に調査し、地価を鑑定した結果、右坪四九万円では国土法に照らして高過ぎ、京都市長の許可がおりない事が判明した。

本件の問題点はこれからである。

右の如く野村税理士が調査し、地価を鑑定した結果、ミツナの土地の時価は坪三八万と判ったので、右坪四九万円では高価に過ぎるが、この土地には建物等もあるので坪四七万円とすれば市長の許可も降りると考え、右契約の予定価格坪四九万円を実際に坪二万円値下げする事としたが、実際に値下げするとなれば、ミツナとしてはそれだけ損失となるのでその旨を被告人らとも相談の上被告人所有地もこの割合に応じて値下して貰うこととなった。

若し、この二万円も圧縮であると云うならば、既にミツナ側の土地坪一〇万円の圧縮につき被告人は了承ずみであるから、これに右二万円を加えて一二万円圧縮すればよく、それに対し、被告人側より何らの異議の出る筈もない。(被告人は土地を欲しがって居り、その値下げの理由は国土法の都合で許可が居りないと云うのであるから)何が故に、被告人会社の土地も共々圧縮する必要があろうか。

ミツナ土地についての圧縮の話は既に決着ずみで、これを裏書金で支払う話合いまで成立しているのであって、右二万円の値下げの話はそれ以後の問題である。

原判決によれば

「そこで右差額のうちの表金額二億七、〇九一万七、五〇〇円を支払うにつき税理士もまじえて相談した結果、税金或は融資先又は国土法の関係を考慮し・・云々」

となっているが、右は歴史的事実を無視し、事柄の結果より綜合的に判断した事であって当を得ていない。

(又論理的にも間違っている)

事実は右の如く階段があり、坪四九万円対坪二四万円で話をまとめようと云う処で、更に国土法の問題が生来してきたものである。

そこで前記の如く双方値引きをすれば、双方に損失なく、合法的に値引きが出来る事より双方がこれに応じたものと見なければならない。

そこで生じる疑問は双方が承諾すれば合法的に何処までゞも値が下げられるかとの問題である。

原審においては野村証人に対し裁判官より

問「差額が同じならもっと金額を下げるという操作もできるんですか」

答「それはやはり時価でないと具合が悪いと思います」

問「計算上はできるんですね」

答「はい」

問「しかし、時価でないと具合が悪いという事で二万円という事にしたんですか」

答「はい」

となっている。

即ち、前記の如く交換差額売買において、双方同率で値を下げ合えば、双方に損害もなく合法的に(税金も安くなる)値を下げ得るが、それには限度があり時価相当迄であると云うのである。誠に理に適った道理であろう。

本来、売地価格を圧縮するのは、例えば価格一〇〇のものを五〇で申告すれば税金が五〇相当なものとして(勿論原価を考慮に入れ)安くなる為であり、価格一〇〇のものを実際に五〇に値下げすれば、それだけ損失となる。これは税金が安くなる比ではない。従って価格一〇〇は実際に維持しつゝ売値の申告(公表)価格のみを下げると云うのである。

然るに本件では交換差額売買であるから一〇〇のものを五〇に値下げしても、相手も同率値下げするのであるから、何らの損害はない。然も合法的に税金も安くなるのであるから、誰でも値下げに応じるであろうし全く双方で圧縮(虚偽の申告)し合う必要がない。

ミツナの専務取締役であった曽根賢二原審公廷において証人として

「売地(ミツナの土地)は坪六〇万円を五九万とし、買地(被告人会社の土地)は坪二五万円を二四万円としたが巌本金属(被告人会社)の申出もあって売地の坪単価につき坪一〇万圧縮する事にしたので、四九万対二四万で契約することにしたが、税理士さんのアドバイスで土地の価格評価を受けなければならないと云う事になり、坪四七万とした。それで買地もそれに応じて(差額を変更しないで)値下げしてもらった。双方が値下げするので損もないのでそのようにした。

買地(被告人会社所有地)について圧縮の話は全くない。」

旨証言している。

又これの交換差額売買に関与したミツナの税理士野村要三は同じく原審公廷において証人として

「私はミツナの曽根賢二さんより売地坪四九万円、買地坪二四万で話をまとめてくれとの話を聞いた。然しミツナの土地は国土法の許可が必要であるから鑑定価格を調べさせた。時価より高ければ許可がおりません。

鑑定の結果坪三八万となったので、ミツナの土地には建物もありますが、そこから計算して坪四七万と曽根さんにアドバイスした。

そこで買地の方も受渡差額を変更しないで、双方損のないよう坪二〇七、一四二円に値下げしてもらった。圧縮がなければ(坪一〇万円圧縮のこと)坪四七万円で別に差支えないと思う。

四七万円というのが時価であるし、買った土地もだいたいあの当時坪二〇万円くらいが時価でした。事実五三年の一二月にその土地を売っているんですが、その時も九、九〇〇万円で売っていますので、大体二〇万円ちよっとの金額ですからそれが時価と私は思っております。

結果は差額の問題だけであとは時価を反映さした取引であれば問題ないと考えて居りました。

相手側の巌本さんの方からその土地を圧縮してくれとか圧縮しよう等の話は全くありませんでした。

私は巌本金属の土地を坪二四万円で修正申告をしたがこれは、国税局に説明したんですが取上げてくれなかった。でこれは課税問題になるんですか、現事業年度に現実に土地を売ってますので売却損が大きくなるだけ通算すれば同じ事という事でした。」

との旨証言している。

検察官側として出廷した野村証人が、右の如く検察官の意に沿わない証言をしているのは、国税局でその旨説明したがミツナ側は既に坪一〇万円の圧縮は明瞭であった為か、右事情を取上げてくれなかったので、法廷においてそれとは関係ない右事情を明らかにし度いと思ってかく証言したものと思われる。

又被告人会社の経理担当者であった長尾克己は原審公廷の証人として

「ミツナの土地の坪一〇万円の圧縮は三井物産より承諾を取るためである」

と云い、被告人会社所有地については圧縮はなかった旨縷々訴えているが、原判決で本件事実認定の有力証拠としている手帳(昭和五三年押第二八〇号の二二)の記載については

「これは実際に支払う額を決めたゞけの事で実際の取引高ではありません。

裏の金を払うため社長の奥さんが金の用意をした。・・・一週間か一〇日程して奥さんが一、〇〇〇万円程不明の金があると云われ、これはいかんとたゞずっと要所要所を書いたものです。メモとして作ったものです。奥さんはこれを見てああわかったと云った。

これは支払の枠を出す為に作ったメモです。」

との旨証言している。

右長尾証人は被告人会社に勤務中同会社の金を多額に使い込み業務上横領罪で被告人より告訴され、身柄拘束のまゝ原審公廷に出頭したものであるから、被告人らに対し心情的にも心よく思わないであろうし、虚偽の証言までして被告人らを擁護する立場でもないのであって本証言の信憑力は極めて高いと云わねばならない。

同証人は取調べ検察官に対する供述調書の記載によると結論的には被告人会社も圧縮をしたが如くなって居り、身柄拘束中の証人は官憲側に迎合する場合が多いのに、肯て検察官に対する供述に反して本証言をしているが、この事に関し

「巌本金属に対しうそでもよいから有利の証言をしなければならない義理はありません。但し私は現在の心境になるまでには心の中の紆余曲折はありましたが、そんな事は別としてやっぱり本当の事を云わんといかんと思いました。」

旨証言している。

被告人は原審公廷において

「天地神明に誓って圧縮はありません」

と強く訴えているが、被告人の検察官調書(五三年三月一三日付)第九項にも記載されているが

「長尾が圧縮によって得をするのはミツナ鋼建だからその分け前を少しくれと云い出した」

と云ったと云うのであるからこれを見ても圧縮はミツナのみで被告人側にはなかったとの証左と云えよう。

これに関し長尾証言では

「裏をする事により売主が実際に利益を得て、買主は利益がなく、こちらが転売する時には税金が高くなるので向うに対しうちの方にも何とか考えて欲しいと申し入れた」

とあり、被告人は更に当公廷で弁護人より

「長尾が圧縮によって得をするのはミツナだから分け前をくれと云ったのですか」

との質問に答え

「うちが売った土地につき圧縮があればそんな事は云いません」

と陳述している。

事実、被告人会社の土地につき公訴事実(冒頭陳述別紙2の〈6〉)のとおり圧縮金一五、七五五、〇〇〇円があるのであれば、それだけ利得がある訳であるから、ミツナに渡す裏金より前記一一、七四〇、〇〇〇円を差引いてくれなど云い出せないであろう。

(四) 結語

以上何れの点より見ても本件圧縮はなく、固定資産売買益として金一五、七五五、〇〇〇円を犯則金額であり、これを逋脱したとの事実は誤りであり、この金額を減額の上相当税額を減算すべきである。

処で前述したミツナの土地坪四九万円(圧縮後)に対し、被告人所有の土地坪二四万円の処、これを坪四七万と坪二〇七、一四二円としたのは、ミツナの土地につき国土法による許可を得る為の便法操作に過ぎないとの原判決の如き考え方も一方に存在するであろう。

然しこれが国土法を得るための計算上の操作であったとしても元来交換差額決済においてその当事者は、その差額の支払いにこそ注目するが、その価格の如何は余り関心事ではない。当事者双方はその値はいくらであっても良い筈である。極端な場合は差額さえ払えば、こちらはたゞでも良いと云う場合もあり得る。双方が承知し納得し合っているからである。双方は共に何らの損失もないからである。まして双方同率で値を下げると云うのであれば双方の税金が安くなると云う事にもなり如何なる人でもこれに応じるであろう。此処には双方に意志を通じた虚偽表示などあり得ないしその必要がない。

たゞそれら手に入れた物件も財産的価値を有して存在する事になるので、その表示には適当な価格が必要である。それが時価であろう。

ミツナの土地は坪六〇万円を五九万円に、被告人会社の土地は坪二五万円を二四万円としたが、右五九万円では被告人会社の融資先より承諾がとれない為、これを一方的に(ミツナ側のみ)坪一〇万円圧縮した。

(相互に虚偽である事の認識あり)

処がその後ミツナ側の都合で(国土法の許可を得る為)時価を標準として坪二万円引下げ被告人会社もその割合に応じて値を引下げた。

この計算上の操作を以って意志を通じて虚偽を表示し、相互に圧縮し合ったと云えるであろうか。

これを以って不当不法だと云えるであろうか。

たゞ原判決も指摘している如く、被告人会社の土地は原価が坪二三万であったと云う。(被告人にすれば原価を割って損失が生じても、相手もそれ相当に値下げするので買った土地でそれ相当得をするから何らの損失もない)

然し、そもそもその値下げを云い出したのはミツナ側であり、同人らにおいて被告人会社の土地が原価を割るなど知る由もない事であり、ミツナ側にて時価に照らして坪二万円値下げの操作計算の結果被告人会社の土地が原価を割るに至ったものであるから、被告人会社の土地が原価以下となっても、それは作為的なものではない。

而も被告人会社の土地は結果的には時価相当であったと云う。(野村証言)

然らば被告人会社の坪単価が原価以下であったとしてもこれを以って圧縮であるとの一資料とするのは当らない。

仮にミツナの土地は事実坪一〇万円の圧縮をしているのであるから、その後の坪二万円も事のついでに相手と通じて圧縮(相手方も圧縮)したのではないかとの疑があり、これは遽に払底し難い場合があるとしても、前記累述の弁護人の主張に照らし本件事実を解釈するに当り疑しきは被告人の利益との御判断を頂いて然るべきではないかと思料する。

蛇足ではあるが

東京高等裁判所判決昭和四一・三・一五(行集一七・三・二七九松月一二・五・七六八判夕一九一・一六五)によれば、「所得税法の解釈上疑わしい場合には国民の利益に解すべきである」

旨判示している。

二、量刑不当

(一) 被告人は原審において本件脱税の主要素である売上除外等の事実を卒直に認め、深く反省の態度を示している。

たゞ税額の一部に納得し難い部分についてかく争って来た訳であるが、当該税務当局より更正の税額については全額これを納税しその他これに附帯する諸税もすべて納税ずみであるので、脱税により法違状態は既に治癒されたと見るべきである。(控訴審で立証)

(二) 又被告人会社に対する罰金額は他の同種に比して極めて高額である。

別紙(一)判決結果一覧表は昭和四六年一〇月四日大阪地方検察庁検察官検事より提出された控訴趣意書に添付されていたものゝ写しであるが(確定判決の記録より入手)これによると、その脱税額と法人に対する罰金額(判決)との比率(罰金額を脱税額で除したもの)は別表のとおりであり、その平均は一割九分三厘となる。

然るに原判決では脱税三、二〇二万二、一〇〇円であるに対し被告人巌本金属株式会社に対し罰金一、〇〇〇万円に処断している。

その比率は実に三割一分二厘となっている。高きに失していると云わざるぬ得ない。

脱税額につき別紙判決結果一覧表と比較すると、原判決の脱税額を越するものとし4(〇・一九四三)6(〇・一四七)10(〇・三二二)12(〇・一七四)16(〇・一二四)17(〇・一六八)21(〇・二二二)23(〇・一九〇)24(〇・一九九)( )内は比率

となって居り、その他において一千万円から二千万円前後が多い。年度は昭和四三年乃至同四六年度の判決であるから現在の時価に比すれば被告人会社の脱税はさして高額とも云えず、又その年度も一事業年度のみである。

右判決結果一覧表中、10東雲健の事件についてはその比率は〇・三二二と高額であるが、その表に記載されている如く同一人で六法人に関係し脱税しているものであり、例外的な悪質犯のためと考えられる。

又判決結果一覧表8の樋口秀雄の事件は別紙(二)(略)添付の判決書写しのとおり脱税額の記載に(株)千村建物に対する脱税額が洩れていたものである。

右の通りでありますから、原判決の被告人会社に対する額は高きに失し、量刑不当と云わざるを得ない。

以上何れの点よりするも原判決は破棄を免れ得ないものと信ずる。

以上

別紙一 判決結果一覧表

〈省略〉

別表 脱税額に対する法人の罰金比率

〈省略〉

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